COLUMN Reika Kikuchi
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Reika Kikuchi

2019年03月01日掲載

イスラエルの法律2 -憲法-

昨年来、我が国の憲法については、改正をにらんだ政治的な議論が白熱してきていますが、みなさんは、『イスラエルには成文憲法はない』ということをご存知でしょうか。

成文憲法とは

憲法典という、法典の形で文章化されている憲法のことを言います。
成文憲法を持たないことで有名な国には、イギリスがあります。これは日本の憲法の教科書のほとんどが書いていることですが、イギリスに成文憲法が存在しない理由は、イギリスには、1689年のBill of Rights以降、長い年月をかけて議会の立法と裁判所の判断決定によって国の統治の仕組みを築き上げてきた歴史があり、それが憲法としての役割を果たしている(から十分だ)、というのがよくある説明です。

なぜイスラエルには成文憲法がないのか

他方で、イスラエルはどうでしょう。実は、イスラエルも、独立当初は憲法を作ろうとしたのです。実際に、独立当初においては憲法の制定が必要だと考えられており、初代首相のダヴィド・ベン=グリオンをはじめとする独立の父達は、1948年10月2日までに憲法を作ろうとして、憲法制定会議を開いて議論をしていました。

しかし、結局、1950年になっても憲法は制定されず、その代わり、個人の人権についての規定をメインの内容とするBasic Laws of Israelという基本法(Lawsとあるので複数あることがわかると思います)が制定されました。立法者たちの当初の意図は、先にこのBasic Lawsを制定しておいて、後にこれを組み込んだ形で憲法典を制定しようというものだったのですが、結局、憲法典の制定は棚上げにされたまま現在に至ります。

ではなぜ制定されなかったのでしょうか。
その後に繰り返し中東戦争が起きてそれどころでなくなったということもあるのでしょう。しかし、そもそも独立当初に内容をまとめきれなかった大きな理由は、イスラエルという国を誰のための国とするか、という重要事項について意見がまとまらなかったから、と言われています。

Basic Lawsのうち、Basic Law: Israel as the Nation-State of the Jewish Peopleという法律を見ると、タイトルからして(!)、イスラエルのことを、Nation State of the Jewish peopleと定義しているので、イスラエルがユダヤ人のための国とされていることがわかります。

この法律は、イスラエルの議会であるクネセットにおいて、実は62対55という割とギリギリで可決された法律で、かつ、国際社会からの反対の声もかなり受けたものです。なぜ反対が多かったか。一つは、イスラエルには、ユダヤ人以外ももともと住んでいたから、ということがあります。もともとそこにいたアラブ人たちからすれば、反対するのは当たり前ですね。

ただ、ユダヤ人の中からも反対の声はあがりました。それは、理念に反対という意見であり、つまり、別の基本法であるBasic Law: Human Dignity and Libertyでも謳われている、個人の人権や平等の概念に反するという問題意識に基づいています。

イスラエル社会の一つの重要な国家的議論

イスラエルは、自由や平等を国家の理念として掲げる国です。そんな国が、ユダヤ人という単一の民族だけを許容する国家として自分たちを定義することは、自己矛盾ではないのか。そういう疑問が独立後絶え間なく問われ続けており、これがイスラエル社会の一つの重要な国家的議論です。

そして、今年1月、イスラエルの最高裁は、このBasic Law: Israel as the Nation-State of the Jewish Peopleの合憲性を、11人の判事から構成される大法廷で判断することを決定しました。どのような判断がされるか、非常に注目しています。

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菊地鈴華

大阪府生まれ、聖心女子学院高等学校卒、京都大学法学部、京都大学大学院法学研究科民刑事法専攻修了、テルアビブ大学ロースクールLL.M(知的財産法専攻)修了。広範な法人取引や商業取引において豊富な経験を有する日本の弁護士。インバウンド/アウトバウンド投資、国際貿易および紛争解決に関する問題に関して、世界中の多様な地域の顧客を支援。イスラエルに3年、エジプトに2年間拠点を置き、中東諸国の国境を越えたプロジェクトに携わる。現在は小笠原六川国際総合法律事務所でパートナー弁護士。

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