COLUMN Reika Kikuchi
COLUMN

Reika Kikuchi

2019年09月17日掲載

イスラエルにおけるユダヤ教と世俗(2)

前回のコラムで、ユダヤ教のイスラエル社会における存在感について、移民の権利に絡めて触れました。

イスラエルに2週間もいれば、そういったモロ法的・政治的な事柄だけでなく、というより、そんなことは知らなくても、いたるところで、ユダヤ教の影響を肌で感じることは可能です。

たとえば、金曜日の日没から土曜日の日没までは、バス・電車の交通機関が止まります(うそではなく本当です!日本ではありえない不便の甘受です!)

カシェルートとは?

そのほかに人々の生活に密着したものとしては、カシェルートという規律があります。
Kasher(カシェル)とかKosher(コシェル)という言葉は、もともとヘブライ語やイーディッシュ語ですが、あまりにメジャーな言葉ゆえに、もはや現代英語に取り込まれていますね。「適切である」とか「問題がない」という意味の形容詞として英語として使っても通じます。

カシェルートは、簡単に言えば、食べ物の加工や提供方法について何が適切かを規律する決まりのことです。

イスラエル イノベーション

古いユダヤ教の規律によってどういうものは食べてはいけないだとか、何と何は一緒に調理してはならないだとか、肉を加工するときにはどのように方法で行いましょうだとか、はたまた食器や調理器具の管理はどうしなさいだとか、そういうことが細かく規律されてきたというわけです。

現代社会には、冷蔵庫もあれば病原菌の解明も進んでいるので、古代の食べ物の規律を適用することに科学的な合理性はほぼないのだと思いますが、それでも、ユダヤ教を信仰する人は、それを守ることが必要なので守りますし、また、社会に脈々と息づいてきた文化的な側面もあるので、なんらかの形でどこかの部分は結果的に守っているという人々が圧倒的に多いのです。

とはいえ、人々のカシェルートの守り方は、信仰の深さに応じて段階があり、もっとも簡単なバロメーターは、豚を食べるか食べないかです。

すなわち、もっとも世俗的でユダヤ教を一切気にしないイスラエル人は豚も食べます。豚がエクストリームなので、豚を食べる人は当然、イカやエビを食べることにも抵抗はありません。

逆の方向から眺めますと、最も厳格にカシェルートを守る人は、家の台所には当然2つのシンクがあり、乳製品を扱ったお皿・調理器具と肉を扱ったお皿・調理器具は、絶対に混ぜて洗いません。そんな人々は、当然、イカもエビも食べないし、豚を食べるなんて考えることもしない、というわけです。

このようなカシェルートの順守ですが、個人がめいめいで勝手に思う通りのカシェルートをやっているのであれば、それは社会における影響というまでのものではないかもしれません。

イスラエルにはカシェルートに関する法律が存在する

しかし、実はイスラエルにはカシェルートに関する法律があります。これは、イスラム社会におけるハラール認定のように、飲食店や食料を製造販売する者が、自分が提供する食料品にコシェル・カシェルの認定を受けるための法律です。

結局、程度の差はあれ何らかの形でカシェルートを守っている人がイスラエルには圧倒的に多いので、飲食店はカシェル認定を取っておいてそれをお店の扉のところに掲げておいたほうが、顧客を呼び込みやすい、というより、顧客を遠ざけないわけです。

大勢で食事に出かける機会がある場合、メンバーの中には世俗的な人もいれば、ある程度コシェルを守りそうな人もいるでしょう。そういった場合に、各人がどの程度コシェルを守るのかが不明だと、いざお店に着いてから、結局のところ誰誰さんと誰誰さんは食べられるものがメニューにありませんでした、となるリスクもあるわけです。

こういうことが起きると気まずい、というか場が盛り下がるので、最初からコシェル認定されている店に行くのが無難、というわけです。

私がよく行っていたお寿司屋の日本人シェフが、通称「コシェル・ポリス」の監査がいかに煩わしいものかを嘆いていたのを聞いて笑ってしまったことがありました。

なんでも、調理に使う海苔を一枚一枚、そこに小エビなどのコシェルではない「異物」が混入していないかどうかを虫眼鏡みたいなのを使ってチェックするとか(笑)。

日本人からすれば信じられないような話ですし、なかなか理解できません。
私も、家で出したものをゲストが食べられなかったという痛い経験を何度かした結果、身に染みてカシェルートについては理解していたつもりでした。

しかし、イスラエルを離れて2年ほどした頃。イスラエルからのお客さんと東京のレストランで食事をした際、彼が、出されたイタリアンのコースのほとんどのものを食べられず、ショックを受けました。チーズは大丈夫だろうと思っていたのにハムと一緒に提供されたからだめ、魚はというとその場でグーグルで調べた結果、(エイみたいに)海底に沿って泳ぐ魚ゆえにダメ、お肉(イスラエルでよく食べられているラム)はいけるだろうと思えば、日本で加工したものは血の抜き方がコシェルではないからだめ。

自分のカシェルートの理解の浅さを思い知ったエピソードでした。

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菊地鈴華

大阪府生まれ、聖心女子学院高等学校卒、京都大学法学部、京都大学大学院法学研究科民刑事法専攻修了、テルアビブ大学ロースクールLL.M(知的財産法専攻)修了。広範な法人取引や商業取引において豊富な経験を有する日本の弁護士。インバウンド/アウトバウンド投資、国際貿易および紛争解決に関する問題に関して、世界中の多様な地域の顧客を支援。イスラエルに3年、エジプトに2年間拠点を置き、中東諸国の国境を越えたプロジェクトに携わる。現在は小笠原六川国際総合法律事務所でパートナー弁護士。

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