COLUMN Reika Saito / Israel Media
COLUMN

Reika Saito / Israel Media

2019年09月09日掲載

イスラエルにおけるユダヤ教と世俗(1)

イスラエルは、社会としてユダヤ教の影響を多大に受けています。社会として、というのは、ユダヤ教が社会を規律する各種制度に組み込まれている面があるという意味です。

イスラエル ユダヤ教

ユダヤ教が社会を規律する各種制度にどのように関連しているのか?

最も顕著な組み込まれ方は、基本法におけるイスラエル国家の定義づけに表れています。
「Israel as the Nation-State of the Jewish People」というタイトルの基本法があり、これがイスラエルの建国以来、イスラエル国家の本質についての論争の根源となってきたということは、以前のコラムで触れました。

では、この基本法の定義どおりシンプルに、イスラエルをユダヤ人のための国家と定義したとして、そこにユダヤ教はどのように関連しているのでしょうか?

この答えは、イスラエルが「ユダヤ人」についてどのような定義を採用してきたかを見ればわかります。
伝統的に、ある者が「ユダヤ人」であるかどうかは、イスラエルという国家との関係においては、その者が移民としてイスラエル国籍を取得できるかどうかという文脈で問題になってきました。

この移民の権利について定めているのが「Law of Return」という法律で、この法律によれば、”every Jew has the right to come to this country as an immigrant”なのです。これは、「Jew-=ユダヤ人」は移民としてイスラエルに帰還することができるというシオニズム思想を法文化したものです。(そして、ご想像のとおり、この法律がパレスチナ人をどう扱うかとの絡みで論争や国際社会からの批判の種となってきたこともまた事実です。)

しかし、このLaw of Returnには、Jew=ユダヤ人の定義がありません。
そこで、イスラエルが国家として事実上採用してきたのが、「Halakha」と呼ばれるユダヤ教の法典による定義で、「ユダヤ人の母から生まれた息子と娘、またはユダヤ教に改宗した者」というものでした。

この定義に則れば、父親がユダヤ人であっても、その子供は自動的にはユダヤ人にはならないし、また、それまでユダヤ人やユダヤ社会とまったく関係ない人生を歩んできていても、思い立ってユダヤ教に改宗すればユダヤ人になれる、ということになります。

ユダヤ教への「改宗」は容易ではない

ただし、ユダヤ人として認めるための「改宗」は、プロセスとして非常に厳格で、近所のシナゴーグに数か月行ってラビにユダヤ教を信じますと誓えば改宗できるというような甘っちょろいものではありません。

私がイスラエルの語学学校で友達になった建築家のフランス人が、私がイスラエルを離れてしばらく会わない間にユダヤ教に改宗し、一昨年会ったときにはバリバリのユダヤ教徒になっていて驚愕しました。

彼女は、イスラエル人のボーイフレンドと暮らすためにイスラエルにやってきたのですが、イスラエルが気に入りすぎて(パリよりも!)、結局ボーイフレンドと別れたあともイスラエルに住み続けるためユダヤ教徒になったのですが、改宗には足掛け3年を要し、かなり大変な思いをしたと話していました。

実は、ユダヤ教といっても一枚岩ではなく、どこのシナゴーグ・宗派(特にキリスト教徒結び付いたメシア思想を有するユダヤ教はオーソドックスなユダヤ教から異端の扱いを受けています。)は認めない、というようなユダヤ教内部の争いもあるようで、私の友達は新興のユダヤ教宗派のところで改宗プロセスを行ったため、移民申請は拒否され、違うユダヤ教宗派のところで途中からやり直して本当に大変だったとか。

ちなみに、このLaw of Returnは、1970年に改正され、移民の権利を得られる有資格者の範囲が拡大され、たとえば、ユダヤ人を父親に持つ者も手続は若干余分に必要ですが、移民となることができるようになっています。
とはいえ、移民となれることは、「ユダヤ人」と認められたことと同義にはなりません。

さいごに

色々複雑でしたが、基本はこのような具合ですから、イスラエルでは、自分の国がユダヤ人のためにあるとされていて、そのユダヤ人の集団に入るためにはユダヤ教にルーツのある母親から生まれた者であるか、自分自身がユダヤ教を信じる者である必要がある、ということになり、およそ日本ではありえないような制度が社会の根本に組み込まれているということがおわかりいただけると思います。

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